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あなたはカウンターの奥から一冊の厚い本を取り出して、あるページを開いてみせました。そこには色々な様子の、不気味なアメーバの写真が載っていました。こんな意味のわからない生物とあんなにきれいな星砂の間に関係性が認められるなどということは、にわかに信じがたいことでしたが、美しく見える星砂は実はちっぽけな生物のなれの果てでしかないのだと、あなたは言うのです。 「有孔虫が死ぬと、殻だけがあとに残るんだ。星に似た形をしたその殻が、一般に星砂と呼ばれているんだよ」 輝きを帯びながら、流れ落ち続ける星の砂。窮屈な硝子瓶の中に閉じ込められたたくさんの死体。尽きたものが刻む生者の時間。 「皮肉ですね」 「きみにとっては、そうなのかな」 「だって、そうではありませんか。死んだものが生きているものの時間になるのだなんて。それではまるで、死んだものが生きているもののために存在しているかのようではありませんか。それは、死んだものに対する侮辱ではないのですか。死んだものよりも、生きているものの方に優位性を認めることになってしまうのではないのですか」 「生きているものは、死んだものに生かされているんだよ。誰でもね」 あなたはふっと遠い目をして、薄く微笑みました。一体どこを見ているのか、あなたの視線の先に何があったのか。それはわたしの知るところではありませんでした。 あなたは砂時計を目の高さに持ち上げると、それに話しかけるかのように呟きました。その声音は星砂の輝きのようにやわらかく、はちみつのような甘さを感じさせました。まるで、最愛のひとに囁きかけるように。     
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