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どうしてあなたは、汗をかいていないのでしょうか。 どうして、あなたは。 「ねえ、きみは――」 あなたが何かを言いかけて、わたしは反射的に両手で耳をふさぎました。 ききたくない。 きいてはだめ。 きかせないで。 それでもあなたの声は、わたしの中に直接響いてくるかのように、届きました。 「きみはいつまで、制服を着続けるのかな」 風もないのに、わたしの胸元でスカーフがはためきました。すっかり褪せてしまったエンジ色が、そこにはありました。 ――嗚呼、動き出してしまう。 * わたしがごっこあそびから抜け出したのは、高校を卒業してすぐのことでした。大学進学を口実に、妹のいる家を出たのです。 そうです、わたしは逃げ出したのです。 妹から離れさえすれば、わたしの時間が、自分だけの時間がきちんと動き出してくれるのではないかと思いついたのです。あなたがいつもまとっていた、眩しいくらいの金色の時間を、手に入れることができるのではないか、と。 わたしは、あなたが羨ましかった。     
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