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確固とした自分の時間を持ち、それを愛し、慈しみながら生きてゆく。抗うことも、止めようと足掻くこともせずに、ただ流されるままに時を過ごす。わたしもあなたのようになりたいと、いつしか思うようになりました。そしていつか、自分だけの金色の時間を抱きしめられるようになりたいと。妹が生きている時間から外へ出れば、それは少しずつにでも叶うことなのではないかと思っていたのです。 けれど、それは愚かな勘違いでした。 離れれば離れるほどに、わたしは妹の幻影にがんじがらめにされてゆきました。いつでも、何をしていても、あの子はどこかでわたしを見張っていました。すこしだけ悲しそうな、穏やかに凪いだ目で。 ――ねえ、あなたは大人になんてなったりしないでしょう。 ――あなただけ勝手に大人になるつもりなの。 常に耳元で、そう囁かれているような気がしていました。 楽しいことも、嬉しいことも、辛いことも、悲しいことも、わかりませんでした。何も感じてはいけないと、無意識のうちに思い込んでいたのかもしれませんでした。 新しいことを取り入れないように、なにも変わることのないように、妹の知らない自分にならないように、暗示をかけていたのかもしれません。ほかでもない、自分自身に、です。 いつか妹の時間が再び動きだしたとき、わたしはあなたと一緒の時間を生きるよ、と微笑んであげられるように。妹がひとりぼっちになることのないように。妹と生きる時間を同じくできるのはわたしだけだから――そんな自負とうっとおしさが混ざったような気持ちでいたのだと思います。     
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