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わたしは妹の時間に抗うことを止め、その証として制服を着続けました。全身墨をこぼしたような濃い闇色の、重たいセーラー服。胸元ではいつも、エンジ色が揺れていました。 わたしは大人にならないと決めました。永遠に、少女のままで生きてゆこうと。 けれど、妹はそうではなかったのです。 妹の時間が動きだしたことを知ったのは、家を出てからさほど経っていない頃だったと記憶しています。妹が停止した時間の呪縛からあっさり解放されたことを、両親は喜んでわたしに報告してきました。きっかけや理由もそのとき一緒に聞いたのかもしれませんが、何ひとつとして記憶に残っていません。わたしはその日のうちに、電話を解約しました。家からの手紙、急な訪問、大学への連絡。すべてに気づかないふりをして、ひとり家に閉じこもりました。 あるとき、見知らぬ人物がわたしのもとを訪ねてきました。妹の名前を名乗ったその女性は、わたしの知っている妹とは何から何まで違っていました。「おねえちゃん」と呼ばれたとき、わたしはひとが狂ってしまう感覚を、はじめて身をもって知ったように感じました。     
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