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あなたがわたしの妹ならわたしを「おねえちゃん」などと呼ぶはずがない、妹はわたしを「ダイアナ」や「ベッキー」と呼ぶはずだ――そのようなことを無茶苦茶にまくしたてたような気がします。それ以後、かつて妹だった女性がわたしに会いに来ることはありませんでした。家からの手紙も、そのうちにぱったりと途絶えました。
それからもわたしは、それまでと変わらず気づかないふりを続けました。
その女性が妹だったということにも。
不思議の国はもうなくなってしまったのだということにも。
妹はいまも空色のエプロンドレスを着て、ちいさなお城に閉じこもっているのだと、自分を騙し続けました。妹は少女のままであり続けているのだと、言い聞かせ続けました。
だって、いまさら。
どうしろと言うのでしょう。
どうすべきだったのでしょう。
「妹のため」という言い訳を取り上げられたら、わたしにはなにも残らなくなってしまうのです。
妹が、わたしのすべてでした。
本当に時間が止まってしまっていたのは、妹ではありませんでした。
わたしの方だったのです。
*
首筋にひんやりとしたものが当たって、あなたがわたしの首にかかったのだということを知りました。わたしは顔を俯かせ、膝の上でかたく組んだ両手を眺めていました。古ぼけた紺色の袖から除く、痩せて骨ばった手。わたしはゆっくり両手をほどくと、そのまま自分の頬にそっと触れました。少女の頃のような、すべらかな弾力はもうそこにはありません。
わたしがダイアナやベッキーだった頃。
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