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その音は微かに、けれどはっきりと、わたしの中に入り込んできます。 砂の音。 時計の音。 金色の音。 あなたの音。 ――嗚呼、動き出してしまう。 * その寂れた時計店は、駅前の、細長い三階建てのビルの二階にありました。 古いビルにはエレベーターなど当然ありませんでしたので、お店に行くには薄暗い階段を上らなくてはなりませんでした。コンクリートの壁に挟まれた狭くて急な階段は、夏でもひんやりと寒々しい気配を漂わせていました。 小ぢんまりとした店内は、その壁のほとんどが掛け時計で埋め尽くされ、背の低いガラスケースの中には腕時計や懐中時計の類が規則正しく整列させられていました。一番奥まった場所に設置されていた、一瞥しただけではそこにあるのかわからないような小さなカウンターの中が、あなたの定位置でした。 あなたはいつでも、そこにいました。たくさんの時計に埋もれるようにして。あなたを見ていると、いつかあなた自身も時計の一部になってしまうのではないか、皮膚という皮膚から時計の成分がゆっくりゆっくり染み込んで、少女が女性になりやがて老女になるように、時計に近づいていってしまうのではないか――そんな空想を遊ばせずにはいられませんでした。そのくらい、あなたと時計とは、同一であったのです。     
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