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「きみが言ったことが正しいとすれば、きみもここにはいらないことになるね」
「そうだと思います」
「だけど、きみはここへ来る。それもとても頻繁に」
「はい」
「それは何故」
あなたは双の瞳に、悪戯っぽい子どものような色を浮かべました。
時計店に時々姿を現すお客の中に、わたしのような中学生はほかにひとりもいませんでした。わたしは余分なお小遣いを与えられていたわけではありませんでしたので、時計を購入したこともなく、ただ飽きるまで眺めるだけでした。そのようなお客は、たとえあなたの時計店とは違いお客を必要としているお店であったとしても、いらないと感じる余計な存在であるという自覚はじゅうぶんにありました。
それでも、わたしがそのお店を訪れていた理由。無粋であると知りながらも、完結している空間に割り込もうとしていた理由。それは、たくさんの時計と時間の中に、もしかしたらわたしの「時間」が紛れ込んでいるのではないかと期待を抱いていたためでした。
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