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もちろん、それが単なるわたしの夢想、妄想にすぎないのだということは理解していました。それでも、そう思わずにはいられなかったのです。正式な店名すらおぼろげにしか記憶していなかったのにも関わらず、あなたの時計店はわたしにとって、自分というものを保っておくための鎖のような役割をはたしていたのです。 「わたしは、このお店にとってお邪魔でしょうか」 「ここは時計店、そしてわたしはここの店主。お客を邪魔者扱いする理由はないよ」 「これからも、ここへ来て良いですか」 「来てはいけないと言ったら、きみは来ないのかな」 「いいえ」 「それなら、すきなようにすれば良い」 正確に時を刻む時計。 狂ってしまった時計。 一時的に止められた時計。 そして、永久に動き出すことのない時計。 仮に人間を時計に例えるとしたら、あの子は動かない時計でした。 わたしには、ひとつ違いの妹がいました。 わたし自身、お世辞にも発育が良いとは言いがたい子どもでしたが、妹はわたしに輪をかけて小柄で幼い容姿をしていました。実際よりも、ふたつみっつ下に年齢を誤魔化したとしても、誰も違和感を覚えなかったのではないか、むしろそちらの方がしっくりきたのではないかと思います。幼少期から身体が弱く、体調を崩しがちであったことも関係していたのかもしれません。     
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