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長時間太陽の光にさらされたことのないひとに特有の雪のように白い肌を、妹は持っていました。そのすべらかでひんやりとした顔に、いつも夢を見ているような色を浮かべて、ベッドに腰掛けたまま、ここではないどこかを見つめているのが常でした。
「わたしね、さっき時計うさぎに会ったのよ。追いかけたのだけれど、あとすこしのところで逃げられちゃった。ねえ知っている? うさぎはパイにすると美味しいのですって。残念だわ、食べてみたかったのに」
「今日はね、お茶会に誘われたの。でも断っちゃった。だって、それはそれはおかしなお茶会なのですもの。だって、ねえ、信じられる? 食べようとするとクッキーが悲鳴を上げて逃げ回るというのよ。おかしいでしょう」
「ぜったいに内緒にしてくれる? 実はわたし、ついに不思議の国の入り口を見つけてしまったの。ねえ、ぜったいに内緒だからね。ぜったいよ」
妹は、妹だけの不思議の国に生きる少女でした。
中学校にあがって少ししたころから、妹は身体の弱さとはべつの理由で学校へ行かなくなりました。そのころからです。もともとの空想好きに拍車がかかり、自らを「アリス」と名乗って、それにふさわしい言動をするようになったのは。
妹にとって自分自身は不思議の国の住人であり、決して、暗く狭いお部屋に閉じこもっている病弱な中学生の女の子などではありませんでした。
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