第二章 時代の流れ

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第二章 時代の流れ

回想(かいそう) 洋子の祖父であり、はじめの父親の悟といっしょに朝鮮半島から日本へ逃げてきた笹岡一郎は、悟と別れてからすぐ佐世保の海軍病院で、マラリアに罹患してこの世を去った、1945年9月のことであった。遺体は、昭島市の実家に丁重に輸送された。実家には一郎の妻と息子夫妻がいた。一郎の妻が「やっと終戦を迎えてみんなで暮らせると思っていたのに。」と言うと、息子の弘明はおもむろにこう言った。「戦争で現地で亡くなられた人もいるんだから、遺体でも無事に家に帰ってきただけ良しとしないといけないんじゃないか。」「そうだけれども。母さん、ずっと待ってたから。」「今はただ静かに埋葬しよう。本当にお疲れさまでしたと言いたい。」一郎は、陸軍士官学校出ということもあり、葬儀には政府高官もみえた。そして、青山霊園に埋葬された。     
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