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 仕事の出先での打ち合わせが長引いてしまい、遅い昼食を取ろうと店を探すも、老舗の飲食店ばかり立ち並ぶオフィス街では既にランチタイムの札は下げられており、ファーストフード店やファミレスなども近くには見当たらない。  諦めて会社近くで食事をとろうと駅に向かっていると、ランチメニューが書かれた小さい黒板が目に入った。地下に階段を下りて行った先にある喫茶店のようだ。カランと軽いベルの音が鳴って開いた扉の先にはもう忘れかけていた男がいた。カウンターの中で煙草を燻らせてラジオを聞いていた。来客に気付き俺の顔を見ると、少しの間があいた後に思い出したらしく少し目が見開かれる。 「……驚いた。こんなところにいるなんて」 「地底人だって言っただろ、座れよ」  男の胸元には細い鎖に通された古めかしいデザインの女物らしい指輪がひとつ、揺らめいた。 End.
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