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男はポケットから取り出した煙草を一本咥えてライターで火をつけようとしたが、雨で湿ってしまったのかそれは叶わず、指で弾いて煙草を床に飛ばした。
恋人関係である彼女は、俺の一度の浮気からおかしくなってしまった。いずれも幸い未遂で終わったが、命を狙われたのは一度や二度ではない。そして彼女は、俺を逃してはくれない。
「いつごろ?」
「何が?」
「死ぬの」
「……さあ」
「質問の答えだけど、俺は地底人で久しぶりに地上にあがってきたんだ」
「……」
「本当は昔埋めたものを掘り返しにきた」
「何を?」
「母親」
雨音は滝の様なものから幾らかは大人しくなってきた。
「戻れよ、まだ間に合うかもしれない。病院に連れて行け。アシはどこかにあるんだろう」
「……わからない」
「もしダメだった時は、埋めるの手伝ってやる」
「ずい分気がいいんだな」
「共犯者が欲しかったらまたここに戻ってこいよ、俺はしばらくは雨宿りしてっから」
男は、笑うと案外たれ目になることがわかった。
別に簡単に説得されたわけではなく、いいかげん頭が冷えて自分の行いを考え直したから眠る彼女の元に戻るのだ。ちゃんともう一度話し合って、お互い別な新しい道を進んで行きたいと伝える為に。
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