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 扉の手前で足は止まる。背後から腰に回ってきた腕がふたつ、絡み付いて抱きしめられる。首もとに温まった(ゆう)の頬が触れた。背中に感じる体は、まだ成長期だがしっかりと大人へと近付いていっている危うい逞しさを持っていた。いつも手を握り引いていた小さい体の少年はいつの間にか男に変わりつつあった。この手が離れてしまった、あの夜から自分には淀みが出来てしまったのだ、もうこの手を握る資格はない決して消えてはくれない淀みが。腹に回る手に莉糸(りいと)はそっと触れた。 「祭りが来ると、また俺はひとつ汚れる」  ゆっくり手の甲を撫でていると、手は立ち上がり、お互いの指は絡まり握り合う。 「だからダメだよ」 「……どうして?」 「俺はもう、逃げられないから」  始まりのあの日、それは始まりであってそれから毎年続いていた。自分よりも小さかったこの手が、するり、逃げ出してしまった夜、莉糸(りいと)は別な大きい男の手に捉えられた。それから毎年祭りの夜には男が迎えにやってきて手を強く握られて離してはくれない。そして連れて行かれる。 「夕が逃げてしまったから……」 「いつの話?」 「祭りの夜」 「……ごめんね。あの日何があったの?」 「覚えてない」 「…………ごめん」  記憶が抜け落ちているのは本当だった。けれども、覚えていないのは最初の夜だけで、次の年からは記憶に残っていた。忘れたくても忘れられない、それらは体の疼きとして毎年、毎年、少しずつ蓄積されていって確実なものになる。嫌悪を抱く感情とは比例して体はじわじわと男を求めていた。 「もう離して」 「やだ」     
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