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序
祭の日から一昼夜、失踪していた子供が山の中で発見された。木々が生え立ち並ぶ森の、不意にぽっかりと広場の様に空いたそこに倒れ込むように子供は眠っていた。着ていた浴衣は幾らか乱れ、軽い擦り傷は細かくあり酷い外傷などはなかったが太股などに垂れて伝い乾いた体液などが付着しており、見るものにはそれと分かる乱暴を受けた痕跡があった。
子供は覚えていない、と言う。
祭でひとりはぐれてしまってから今まで、何も覚えていないと。
発見されたその夜、子供は高熱を出し3日ほど悪い夢に魘される様に苦しそうに床に臥せった。意識がはっきりしない寝言で何度か、紅い目が見ている、とか細く漏らした。
村の本家筋の老婆は言う。
「あの子は山神様に気 に入られたようだ 」
平日は大学近くで一人暮らしをしていて学校とバイトなどの毎日、そして週末は実家に帰る、という生活を続けている。実家から大学へ通えない距離ではないが、自分でバイトもするから、となんとか親を説得して叶ったものだった。とは言ってもわりと簡単に説き伏せたのは、最後の我が儘として聞いてくれたのもあるのだろう。この土地から離れることなど到底無理なことなのだから。
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