第一章 目覚め

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「治るまで大人しくしてな」 「仕事が……」 「仕事? あなた、ソルジャー……なわけないか。あの恰好だと、商人? にも見えなかったけど……」 首を傾げる少女に、一穂もまた不安になった。 どう考えても、デスクワークやサラリーマンという単語は通じそうにない。 身分証明書は今手元になさそうだ。 では、自分を何者と言えばいいのだろう。仕事は、どう説明すればいいのか。職場にはなんて言えば―― 次から次へと湧いてくる疑問と不安に、体より頭が痺れてきた。 「あなたを捜してる人がいるの?」 「俺を、……捜す人……」 両親がまず頭に浮かんだ。それから職場の上司や後輩。 (仕事が溜まってそうだ……) こんな時も仕事のことを考える自分が滑稽に思えた。 「大丈夫?」 ここは、そんな心配よりも、もっと大きな恐怖がある。少女の曇りない茶色の瞳に、一穂は確信した。 「ここは、どこなんだ?」 少女も、何かを想ったのだろう。小さく頷く。 「ここは、荒野の国エリミヤ。ようこそ、異国の方」 一穂は、大きく息を吐き、そして黄土色の天井を仰いだ。
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