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目の前の景色は現実なのか。
「どこまでも、……荒野だな。ま、荒野の国だからそうか」
国名を口にしても、まだ現実味がない。
だが、目の前に広がる光景と体に当たる埃っぽい風は、一穂に現実だと突き付けてくる。
荒野の国エリミヤは、ごつごつとした岩と砂漠に囲まれ、土壁の家々が僅かな緑の間に密集する地だった。
さらに、ここは国の首都イーリアというらしい。
一穂は肩を落とした。
傷が癒えた頃には、ひと月経っていた。
最初は、毎日どうすれば帰れるのかと不安と恐怖に耐えていた。変なテロリストに拉致されたのかも、と。
だが、自分を拉致しても相手に得は全くない。国家の秘密を握るようなこともなければ、国を担う経済活動をしているわけでもない。よくテレビで見るように、紛争の地域に足を運び、現状を伝えるジャーナリストでもない。
その日の仕事に追われ、将来の自分はどうなっているのだろうと時折思うただの日本人だ。
それでも、国相手の莫大な身代金目当てならばどうしようもないだろうが、一穂はあの日――
(あの日……そうだ、上司の赤井さんと飲んで帰る途中……)
と、背後で人の気配がした。
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