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一穂が不安に落ちずにすんでいるのは、彼女の存在があったからだ。
「あっ、また外に出てる!」
慌てて一穂に駆け寄ってくる少女の名は、ミーシャ。表向きには踊り子をしているそうだ。
「もう! 動けるようになったからって、勝手にどっか行かないでよ?」
「ただちょっと外に出ただけだろ?」
苦笑する一穂に、ミーシャは肩を怒らせる。
「何度も言ってるでしょ? ここは、カズホの故郷と違う。異国の人間だと分かれば、だましてくる奴もいれば、襲ってくる輩もいる。それに……」
ミーシャがそこで言葉を切った。
弾かれたように天を仰ぐ彼女につられて、一穂も緊張する。
そう――ここには、いるのだ。
「ドラゴンよ!」
一穂の世界では、本や映画の中でしか存在しない怪物。火を噴き、巨大な深紅の体躯で空を自由に飛び回るドラゴンが、今まさに彼の頭上に現れたのだった。
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