第一章 目覚め

5/9

50人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
 一穂が不安に落ちずにすんでいるのは、彼女の存在があったからだ。 「あっ、また外に出てる!」  慌てて一穂に駆け寄ってくる少女の名は、ミーシャ。表向きには踊り子をしているそうだ。 「もう! 動けるようになったからって、勝手にどっか行かないでよ?」 「ただちょっと外に出ただけだろ?」  苦笑する一穂に、ミーシャは肩を怒らせる。 「何度も言ってるでしょ? ここは、カズホの故郷と違う。異国の人間だと分かれば、だましてくる奴もいれば、襲ってくる輩もいる。それに……」  ミーシャがそこで言葉を切った。  弾かれたように天を仰ぐ彼女につられて、一穂も緊張する。  そう――ここには、いるのだ。 「ドラゴンよ!」  一穂の世界では、本や映画の中でしか存在しない怪物。火を噴き、巨大な深紅の体躯で空を自由に飛び回るドラゴンが、今まさに彼の頭上に現れたのだった。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加