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一穂は、唖然としていた。
人々は逃げ惑い、街の屈強な兵士達が各々定位置についていた。
「カズホ! あなたも早く家の中へ!」
「でっ、でも……あんなのが襲ってきたら、一溜りもない……!」
「倒すことはできなくても、……せめて、退けるくらいは」
表向きは街の酒場の踊り子をしているミーシャ。だが、本当の姿は街を守るための傭兵だ。
ミーシャの体の周りに、縁色の渦が見えた。それは、束の間鳥の形を成して、少女の周りを再び守る渦の壁となった。
「いくよ、タクシィ・アエトス」
ミーシャがそっと呟く。
この世界には、魔法がある。縁は風の力だという。他の力もあるみたいだが、一穂はまだ教えてもらっていなかった。
ミーシャの家系は、先祖代々風使いだという。
華奢な少女が、と一穂は思ったが、ここ数日彼女の腕前を見ていた。ドラゴン相手ではなかったが、街を狙う、これもまた一穂が見たことのない怪物を退けていた。
怪物は、夜に向かうにつれ、活動を開始するようだった。
今、陽は西に沈みかけていた。どこの国でも、世界でも、太陽と月は変わらない。
夕陽を浴びるドラゴンは、さらに赤く、神秘と神気を纏っているように見えた。
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