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キツネ目の男は、翼が半年くらい付き合っている千葉 徹だ。
つい3日前に翼のアパートを訪れた千葉から翼はプロポーズをされたばかりだった。
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『俺と結婚しないか?』
単純な脳にわかりやすくそう言われた。それなのに、一瞬だけ言葉を理解出来なかった。
徹が結婚なんて話を匂わせてきたことが、今まで一度もなかったからだ。だから、信じられない気持ちになって、ひたすら瞬きを繰り返していた。
冷蔵庫から出したばかりの缶ビールを両手に持ったまま固まって翼は徹を見おろす。
『本当は、今日言うつもりじゃなかったんだ。もっと洒落たレストランとか予約してからって思ってたんだけどな』
照れたように頭をかいた徹。
『けど、早く言わないと後悔しそうだから…今日、実はまだ何にも用意してきてないんだけど、気が焦って…なんかごめんな』
何も持たずにプロポーズし始めた事を特別問い詰めた訳でもないのだが、焦ったように徹は弁解をした。
絨毯の上に正座していた足を崩し、困ったように苦笑いする徹。そんな徹の様子を見て、これは現実なんだ、自分の身に起こったことなんだと、ようやく翼は事態を飲み込み始めていた。
プロポーズを受けるのは、30年の人生でこれが初めての経験だった。
なんの取り柄もない地味な女を結婚相手にと、考えてくれた徹には本当に感謝の気持ちしかない。素直にそう思った。
ずっと前に応募していた懸賞の当選品が、不意に宅配便で届いた時のように嬉しかった。
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