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『高級なレストランなんていいよ。指輪もなくていいって』
徹の額に滲んだ汗を見ていたら、全てを許せる気がしたし、この人ならこの先も信じられる、そんな気がした。
プロポーズされたことは、今年30歳を迎えた女にしたら本当に嬉しい出来事だ。
プロポーズされる場所がどこであろうが関係ない。気の利いた明るい色の花束も、綺麗なダイヤの婚約指輪も、今は無くても構わない。
もちろんあった方がいいが、別段こだわる部分でもない。
『良かったあ。翼ならそう言ってくれるだろうと思ってたよ』
缶ビールを両手に持ったまま、ぎゅっと抱きしめられて徹の肩に顎を乗せる。
本当に愛されてるんだなって、そんな風に思えて最高に幸せな時間だった。
だが、幸せな時間というものは決して止まらないものだ。神様は、すぐに、その時計の針を先へと進めたがる。
抱きしめながら徹が言った。
『高級レストランなんて翼っぽくないし、アクセサリーもさ、ほら翼って全然つけないもんな?』
『?』
なんだ?それは…。
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