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先ほどの煙が晴れると、この狭い室内にどうやって詰め込んだのか、と思うほどにびっしりと置かれた精密機械群が姿を現した。
私はただ「凄っげー!」と叫ぶばかりで、まるでその辺を走り回る小学生の眼差しになっている筈だ。
「ほっほっほ、全てわたくしの作品でございます。」
「ま、マジでー?」
やはり小学生的反応になっている。驚き続きで早くも、元とった!と思ったが、まだ入館料を払っていないことに気付き、老人に尋ねた。しかし、老人は無料だと言う。少しだけ申し訳ない気持ちになりながら、視線は機械に釘付けになっている。
老人は、とりあえず、お近づきの印にと、上等のお茶に極上のお茶菓子を持って来るのでソファーに座って待つように言われた。しかしこちらは、上等だろうが、お茶にお茶菓子どころではない。老人が行ってしまうと急いで機械を見て回った。
[このボタンを押すと鉄仮面騎士になれます]
[このボタンを押すとお姫様になれます]
どれもこれもボタンひとつで変身出来るらしい。流石に私も小学生ではないので、子供が喜ぶ姿を見て喜ぶ老人の笑顔を想像しながら、なんとも微笑ましい老人だと思った。
「このボタンを押すと過去に行けます]
この表示に釘付けになった。本当に過去に行けるなどと信じている筈もないのだが、既に私の頭の中では、高校時代にクラスが同じだった美香さんの笑い声とふわふわした頬のエクボを思い浮かべていた。
私の意思で動かしているのか、右手の親指は赤いボタンに近づいて行き、そして、ボタンに到達した親指がゆっくりと深く押し込んでいく様を見送った。
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