帰還

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帰還

「ご老人、私は一人になってしまいました」 「分かっております。まず、ゆっくり食事を座敷で召し上がりながら、これからどうすれば良いか、一緒に話を致しましょう。」  私は体が石のように重く、座敷まで、老人の肩を借りて歩くほかなかった。  老人には驚いてばかりだが、座敷の棚には、たくさんの人形、ロボットのような形をした時計、小さな蒸気機関車、そんなものが、金色の首がひょろ長いランプに照らされていた。  緊張して、これらは何なのかなどと訊ける状態ではない。いったいこの老人は何者なのだろうか。 「どうぞ、召し上がって下さい」  私は言われるままに箸をとり、前菜にかぶりついた。  彼は、私に2年前に戻るように勧めた。何もなかったかのように家に戻り、2年前の時と同じように振る舞えば良いということだった。確かにその通りだが、とにかく老人と知りあってからというもの、理解しえない事ばかりが起こった事を思い出しながら、次々に出てくる素晴らしい食事に箸を進めた。どれだけ腹を空かせていたのだろうか、私は全て平らげてしまった。食後に煙草を頂いていると、からくり人形がお茶を運んできた。やはりこれには参ってしまった。いつかテレビで見た物とそっくりな、おそらく江戸時代に作られた骨董品。  しばらくして座敷を出ると機械だらけの部屋に行き、いよいよ旅立つことにした。2年前に使った、あの魅力的だった機械を前にして、老人にお礼とお別れを言うと、私はまた赤いボタンを押した。 「ご老人、お名前を、」  既に遅く、老人の顔を見ようとして顔を上げると、私は人形が並んだこじんまりとした回廊に立っていた。 「そうだ、ここは、からくり博物館だった。」 30年前にタイムトリップした時にもあった科学館が、2年後にもあり、しかしその時間に挟まれて、今、博物館が存在している。 「ここは一体!?」と叫ぶと、 係員が私に気付き、人差し指を口の前に立てていさめた。  棚には、からくり人形や時計、そして、あの老人に似た白黒写真。例の時計も。私は居眠りをしていたのだろうか。
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