8人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
【 脳 】
僕はいろんなことを忘れてしまう。
沢山の記憶がぽっかりと抜け落ちて、消えて無くなってしまう。
いつ寝たのか何を食べたのか昨日何をしていたのか。覚えていない。でも、いつ起きたのか何を飲んだのかさっきまで何をしていたのか。まだ覚えている。
何が嫌いだったのか忘れたけど、何が好きなのかはまだ覚えている。
頭が不安定な僕は、もう大人なのにできないことが多くて、お父さんとお母さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。
すぐに忘れてしまう僕だけど、自分で並べた物や置いた物の場所は覚えていられる。
どうしてそんなことができるのか僕自身も分からない。
部屋中をグシャグシャに散らかされたとしても、散らかされる前と全く同じように正確に元通りにできる。
苦手なことばかりな僕も片づけは得意だから楽しい。出した物も動かした物も決められた所に必ず戻す。
整理整頓がきちんとできる僕を、皆が褒めてくれるから嬉しい。
今日、僕の部屋の押し入れの中が妙に気になったから片づけをしていると、一冊の教科書を発見した。中学一年の国語の教科書だった。
去年引っ越しをした時、教科書はもう必要無いからってお父さんが全部処分したはずなのに、これだけ残してあるのは何故だろう?
僕は必要な物を絶対に手放さないから、この一冊だけはどうしても捨てたくなかったのかな。
この教科書を捨てなかった理由は忘れてしまったけど、とても懐かしい気持ちになった。
中学一年生っていうと、十年も前か。
僕は何でもすぐに忘れてしまうけど。
時々、何かが切っ掛けで、忘れてはいけない重要なことが……
蘇ってくる――
最初のコメントを投稿しよう!