理想と現実

11/12
前へ
/218ページ
次へ
名前を呼びたい。 返事がかえってこなくても、ちゃんと出席を取りたかった。 だって__教師だから。 「安達みつる」 「だからさー!」 間髪入れず、出席番号1番の安達みつるが机を蹴り上げる。 返事ではなく、抗議だ。 「俺の名前を呼ぶなって言ってんだろうが!」 机をかき分けて、教壇に向かってくる。 クラス1血の気の多い安達みつるは、殴りかからんばかりの勢いで__。 「今度、1回でも俺の名前っ、な、なまっ__な!」 急に立ち止まると、喉をおさえる。 「がっ、が!がぁああ!」 側の机に倒れこみ、悲鳴が上がる。 喉を引っかいて、目を飛び出さんばかりに見開くと、その顔色が瞬く間に紫色になっていく。 周りの生徒も、さすがに様子がおかしいことを察し、席を立って遠巻きに眺めていた。 「ごっ!」 椅子を蹴散らしてのたうち回る安達みつるは、急に倒れて動かなくなった__。 教室が静まり返る。 床に倒れた安達の周りに、自然と輪ができていた。 誰1人、口を開かない。 僕は、輪の中に足を踏み入れる。 安達みつるが、口から泡をふいていた。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加