理想と現実

4/12
前へ
/218ページ
次へ
朝のSHRのチャイムが鳴った。 【出席簿】とプリントを小脇に抱え、颯爽と廊下を進む。 僕の受け持ちである柴崎(しばさき)中学3年1組の教室は、校舎3Fにあった。 「もうチャイム鳴ったぞ!」 まだ教室に入っていない生徒の尻を追い立てる。 わずかに眉を吊り上げて。 ここは教師としての威厳を振りかざさなくてはならない。 逃げるように散っていく、中学生たち。 1番、複雑な年頃だ。 「走るなー!」 声を荒げつつ、自分の教室の前に着いた。 1つ深呼吸する。 いつも、この時ばかりは緊張が襲う。この扉を開けると、30名の、60個の目が一斉に輝くからだ。 「みんな、おはよう!」 扉を開けると間髪入れず、日直の号令が響き渡る。 「起立!」「礼!」「着席!」 やや気だるさは伴うものの、全員が僕に向かって頭を下げ、席につく。 机や椅子が動く音がやむと、静けさが広がった。 おとなしく、教師の言葉を待つ生徒たち。 「今日はいい天気だな」と、軽い調子で言いながら、出席簿を開いた__。 「それじゃ、出席を取る。元気に返事してくれ」 1つ咳払いしたのち、出席簿順に名前を読み上げる。 「安達みつる!」
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加