理想と現実

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幼い頃から、将来の夢は【教師】だった。 【大きくなったら、お父さんみたいな先生になりたいです!今井良太】 卒業文集に書いたのは、小学6年生のこと。 父は社会科の教師から校長まで勤め上げ、母も音楽教師という元に生まれた。卒業してもなお、父のことを頻繁に訪ねてくるかつての生徒たち。そんな熱い絆を、子供の頃から夢見ていたんだ。 教え子たちが慕ってくれるような、そんな教師になると__。 「返事しろよ!クソ今井。お前みてると、やる気失せんだよ!」 後ろの席で踏ん反り返っている、1番に名前を呼んだ【安達みつる】は、乱暴に机を蹴り上げた。 「あ、鮎川沙奈江!」 慌てて次の名を呼ぶ。 思春期の男子は、なにかと大人に反抗したくなるものだ。 その点、この時期の女子は早熟で大人びて__。 「きもっ。こっち見んなよ」 【鮎川沙奈江(あゆかわさなえ)】は、顔をしかめてそう吐き捨てた。 「い、猪俣直樹!」 「はぁ?お前、いま呼び捨てにしたか?」 「い、一ノ瀬ミサ!」 「マジ死ねよ」 「遠藤重人!」 返事がない。 まだ罵声を浴びせられないだけ、マシなのか? 次の「江東奈美!」から「沼井千代!」までは名前を呼んでも、全く返事はなかった。 「ひ、浩志ジャクソン!」 「yes!」 初めて、元気な返事が聞こえてきた___。 「がっ!」 頭に衝撃が走る。 バスケットボールが顔面に直撃したからだ。
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