理想と現実

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【学級崩壊】 教師になるに向けて、そのパワーワードはよく耳にしていた。 授業に集中できず、私語がやまず、立ち歩く生徒。 だがそれは、まだ力でねじ伏せることができる小学生のことと思っていたのに__。 夢を叶えるために、机にかじりついて勉強した。 父親みたいな、生徒に好かれる先生になるのだと。 教員免許をとり、はじめて赴任先の柴崎中学にやってきた。 【今井良太】と黒板に大きく書き、生徒たちと対面する。 しんと静まり返った教室。 新しい担任を見返す、30名の眩しいくらいの眼差し。 「先生の名前は__」 そこまで言った時、物凄い勢いでバスケットボールが飛んできた。 教壇に突っ伏すと同時に、割れんばかりの歓声が教室に響き渡る。その大半が、笑い声だ。無様に倒れている新任を、助け起こそうという生徒は1人もいなかった__。 「ナイス、ジャクソン!」 あの時と同じ、クラス全員が拍手を送る。 桁違いに大きな【浩志ジャクソン】に。 「きたねっ、血とかふざけんなよ」 1番前の席の【矢井田ミキ】が、嫌悪感を丸出しで遠ざかる。 その時になって初めて、鼻血を出していることがわかった。 慌てて出席簿を畳み、逃げるように教室を出て行く僕の背に、侮蔑の笑い声が突き刺さる。 これが現実だった。 まぎれもない【現実】だった__。
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