理想と現実

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自宅への帰り道、ふと思いついて商店街に寄ることにした。 血塗られた【出席簿】はもう使い物にならない。 学校の備品で賄えるが、気持ちを新たに出席簿の代わりになるようなものがあれば__と。 自分が子供の頃からある、昔ながらの文具屋に入った。 たしか、昔はおばあさんが店番をしていたような? ノート類を見て回るが、さすがに代用できそうなものがない。 日記帳にアドレス帳__懐かしい単語帳なんかもある。 ぱらぱらと白紙をめくっていると、いつの間にか奥からぬっと現れたおばあさんが無言でこっちを見つめていた。 すぐに店を出るのも申し訳なかったので、適当にボールペンなどを手にレジに向かう。 「あの、出席簿なんかは無いですよね?」 「__あるよ」 「えっ?」 思いもよらぬ返事に驚いていると、おばあさんは棚から一冊の名簿帳のようなものを差し出した。 どこから見ても、出席簿と変わりがないが__? 【死席簿】 「あの、死席簿って書いてあるけど?」 「そうさ。あんたの願いが叶うだろうよ」 「僕の、願いが?」 なんだか不吉な気もしたが、出席簿が使えない以上、背に腹は変えられない。 税込で千円を払って、店をあとにする。 新しい出席簿を手にしただけで、塞ぎがちだった気分が晴れていく。 しかし__あのおばあさん、子供の頃となにも変わってない。 不気味なくらいに。
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