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結局、夜まで眠った。車の中で、 「週末混むから、店予約しちゃって」 と、英司が言った。 「眠いよな、わるい」 「いや、こっちこそ寝ちゃってごめん」 腰から下の浮遊感が、起きてからもなかなか消えなかった。 「体が変だ、なんか」 英司は僕の顔を見て、普段あまり笑わない人だが、笑顔になった。 「よかった?」 「うん」 「またしていい?」 僕が頷くと、英司は視線を前に戻した。その後、何か言いかけてやめた。 店にはカウンターとテーブル席があったが、ほぼ満席だった。英司が名前を告げると、奥の小上がりに通された。 「よく来るの?」 「あそこに泊まる時はね。もう二年くらい来てなかった」 英司はメニューを開いて、僕に渡した。 「飲み物、決めて」 「ウーロン茶にする」 「気にしないで飲んで」 「いや、飲んだらまた寝ると思う」 「…君、平日眠れてないだろう」 座卓の上のボタンを押すと、白い割烹着を着た女性が小上がりの前まで急いでやってきた。英司の顔を見るなり、 「あ、先生!」 と声を上げた。 「ご無沙汰してますね」 と英司は応えた。彼女は草履を脱いで膝立ちで上がってくると、 「どうも、いらっしゃいませ」 と僕に向かって、にこやかに頭を下げた。     
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