2 経房の君

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「そうです。結局、中の下の女が一番良いと書いていて、我田引水もいい加減にしろとあなたが言った。あの人ですが、鷹司殿とは旧知の中で中宮さまに仕えるようになりました。今は藤式部という名でかつてのあなたのように、上臈の筆頭格の一人です」 「その人が?」 「大臣は、いずれ故皇后さまと帝のことはお気づきになると、この藤式部にあの品評の前日談を書かせました。話は持ってきているので、お暇なときにお読みになるといい。かいつまむと、寵愛した更衣を失った帝が、更衣の残した男宮を大切にしたが、更衣が忘れられず嘆き悲しむ。ただ更衣の従妹にあたる姫宮がそっくりだと聞いて迎え入れて、男宮はその宮の女御を顔も知らぬ母と思って懐いたという話なんですね」 「皇后さまが更衣、一の宮さまがたがその男宮、宮の女御が御匣殿別当、ではなさそうですね」 「御匣殿別当は皇后さまと一緒にむしろ更衣の方ですね。宮の女御が更衣の従妹というところに妙があって、宮の女御は中宮さまのことです。女御は中宮さまと同じく藤壺にお住まいの設定です。その話を読んで以来、中宮さまは帝の寂しさに心を寄せられ、一の宮さまや姫宮さまと親しもうと良く藤壺にお呼びになり、それを聞いて帝も藤壺にお越しになるという、好循環を迎えていますよ」 「それで、私の枕草子は」 「中宮さまは枕草子での睦じい様子を、帝と桐壺の更衣の物語だとお捉えになって、大変良いものだ、もっと従姉の皇后の宮を知りたいとおっしゃいまして」     
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