2 経房の君

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「まさか」 「枕草子を全部お読みになりましたよ。その中にいるあれは誰だこれは誰だとおっしゃるので、白状すると、私本人が出てくる。随分と仲が良かったのね、と聞かれれば、姉のように慕っておりましたと申し上げるしかないでしょう。それで、お命じになったというわけです」  土御門さまか帝からかと思っていたら、まさかの中宮さま。 「中宮さまはなんと」 「書いて下さらぬか、帝がいまでも一心に思っておられる方の話を、と」 「なんと寛大な」 「后の宮に自己を寄せるおつもりはないようですが。知りたいんだそうですよ」 「何を書きましょう」  私は消え入るような声で問うた。 「この前、あぶり餅を作ってくれたけれど、あれは后の宮にゆかりのあるものではないのかな?」と夫が言った。 「あぶり餅。あれは懐かしい。行成から、あの函谷関の話は書くべきだと伝えろと言われてきましたよ」 「后の宮は出てこないけれど」 「后の宮のお話も、私や行成の話も含めて、途中で終わっているではありませんか。枕草子の続きを」  わかりましたと私は答えた。
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