3 あぶり餅

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 経房の君は姉君が東三条女院にかわいがられて土御門のあの方の妻になり、経房の君もあの方の猶子になられた。この高松殿も、中宮さま生母の鷹司殿同様に大切にされておられて、そのおこぼれがこの経房の君の上にもある。  そういう一見自由で、同時に不自由な身分ながら、経房の君はかつての友の伊周の君、隆家の君ときちんとお付き合いを続けられる数少ない公達だ。 「私が買わせて持ってくるよ。お毒見が必要でしょ」  その晩、なかなかお会いできずにいた行成の君もお越しになって、三人で「あぶり餅」を食べてみた。  残念ながら、時間が経って、餅が固くなったので私は炭火で再度あぶった。  熱くて、あまじょっぱい味噌と、香ばしい餅の味が実に良い。 「これなら、少し古くて固くなったものを差し上げるよりも、作りたてを后の宮に食べさせてあげられるのではないかしら」と思って、炊事の女に作らせてみることにした。  お毒見は私だけでは心もとない。味の判別ができる人を頼りにしたい。口の軽い女房より男の人がいい。夫は摂津だし、面白がっただろう実方の君はすでにこの世にいない。ここはやはりあぶり餅の味を知っている、経房の君、行成の君しかおられない。経房の君は物忌みがあるとおっしゃって、行成の君だけが来られた。  二人で楽しく食べたのだけど、急に行成の君がつっと立ってお帰りになった。  その後に後朝の文でもなかろうが、行成の君が私に文を寄越された。     
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