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私はそれを渇望していたと言ってもよい。皇后さまが出産のために三条にお下がりになって以来、宮中の華やぎとは無縁だったのだから。
しかし、経房の君にも申し上げたけれど、私にとって「中宮さま」とは、昨年末にお亡くなりになった皇后の宮さまただお一人で、二君に仕えることはできない。
前夫の、あの無骨な橘則光まできたが「だめだよなあ、そうだよなあ」と自分で答えを見つけて、息子の話だけをして帰って行った。宮仕えをするときに大変もめて、家を飛び出し息子も置いてきたが、熟して少し乾いた知己という関係も悪いものではない。
今の夫の藤原棟世は私の后の宮への忠誠心を尊重してくれて、摂津に赴くときも「あなたは都でお后さまのお側にいれば良いんだ。摂津は近いから休養するときにおいで」と言ってくれた。
中宮さまに仕えないならとどなたが思われたのか、帝の近くに仕えられる典侍が来られて、皇后さまの残された三人の宮さまがたに、内侍としてお仕えしませんかと問われた。
それは夫のためにも、幼い娘のためにも、いずれ橘氏長者になる息子のためにもなろう。
后の宮が小さな宮さまがたを心配しながら儚くなられたと思えば、後ろ髪を引かれる。
だが、三人の小さい宮さまがたのお近くにいれば、伊周さま隆家さまにお会いすることになる。
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