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后の宮がお亡くなりになり、雪の降る庭で呆然と空を見上げる隆家さまのお姿は忘れられない。伊周さまが宮の遺骸を抱きしめられて声を上げて男泣きに泣かれた泣き声もまだ耳にこびりついている。お二人のお名前を聞くだけで、后の宮が亡くなられたことを思いだしてしまう。
典侍さまには他の方に申し上げたのと同じように、「后の宮のおられない宮中に仕える気力はない」とだけお答えした。
ただ、その中で赤染衛門の君が「お嬢さんが大きくなったら私に預けませんか」とおっしゃって、是非そうさせていただきたいと返事をした。
そして、摂津の夫から文が来た。
「しばらく摂津で休んで歌枕でもご覧あれ」
久しぶりに夫と娘に会いたくなって、摂津に来た。
夫の後ろには衣の裾を掴む小さな手があった。
「あら、小さな人がいらっしゃるのね」
「姫や。母さまが摂津にお着きになったのだよ」娘にそう言いながら、夫は私に言った。
「昨日から母さまはいつになったらお着きになるのかと問うのだけど、いざ本人を目にすると恥ずかしがっているようだね」
夫の陰から恥ずかし半分好奇心半分で見せてくれた顔は、切り下げ髪で下唇を吸っている女の子の顔だった。娘が摂津へ向かう牛車に乗ったところを見送ったのは、まだおしっこも垂れ流していたような赤ちゃんだったから、私の顔など覚えてはいまい。
行儀が悪いと思うが、まだ六つになったばかりだ。私に似てくれればよかったのに、目の形があの人そっくりになってしまった。
実方の君。
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