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実方の君が陸奥に行かれてから、私は妊娠に気づいた。何しろ、相手は帝のお怒りを買い、「歌枕でも見て頭を冷やせ」と、半分流されたような方のお子なのだ。男の子でも女の子でも実方の君次第でその人生に大きな差し障りがある。別れた則光も遠国にいたし、経房の君のご厚情に甘えるわけにもいかない。実方の君に伝えるべきかと考えているきに、毎日のように会いに来てくれる今の夫にあたり散らして泣いた。
「私の腹には陸奥に行った人のお子がいるのに」と。
この人は穏やかに言ってくれた。
「私は男やもめで子どもがいないから、そのお子を私の子としたい。お嫌なら私はあなたに指一本触やしません」
不快感のない相手だった。そのまま私はその人の妻になった。子どもが生まれたら、悪くなさそうな乳母を見つけてくれて、私は安心して后の宮のところに戻った。
その後、陸奥で実方の君は落馬してお亡くなりになった。高貴で聡明で短気で華やかで美しかったあの人の最期が落馬というのも物悲しい。ただ、お戻りになれば娘のことをなんと言おうかと思いあぐねていたのでホッとしたのも事実である。そして、私は自分の気持ちがすでに華麗な実方の君ではなく、この地味な受領の上にあることに気づいて愕然とした。
夫はなさぬ仲の娘を非常にかわいがってくれて、あくまで実子として扱った。
摂津の暮らしは悪いものではない。
国守の北の方は厳しくあってはならないだろうと、恐れ多くも后の宮さまのありようを参考にして、周囲で仕えてくれる人たちが気持ちよく働けるようにと気を配った。
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