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北の方不在の国府と、北の方のいる国府では何かが決定的に違うのだろう。私は元は遠慮がちに排除されているかのようにも感じていたが、徐々に打ち解けてもらった。
娘も、当初こそ毎日のようにそっと私を隠れ見たが、ゆっくりと「母」がいることに慣れた。
夫は「北の方として切り盛りする才能もおありだったか!妻にすべきは才媛に限る」と喜んでくれた。夫は私を喜ばせる方法を良く知っている。
今は、海岸で波が打ち寄せる際で、娘がきゃっきゃとやるのを夫婦で見る。平凡で穏やかな日々だ。遠い昔、父の任地の周防の国で父母はこういう目で私を見ていたのだろうかと思う。
そのうち公任の君から文がきた。
「枕草子を紐解くたびに、清少納言の君がどうしておられるかと懐かしい」
文字の美しさなら、やはり行成の君の瓏々としたのが一番である。
しかし、「書」として鑑賞するのではなく、事務的な文字として見るならば、整って、途中ちょっと丸みのある公任の君の文字が一番良いと思う。あまりに実用的すぎるだろうか。
文と一緒に、「この三十六人を三十六歌仙と名付けた」と万葉集以来の有名な歌人の名があった。その中に、紀貫之や伊勢と並んで父の名があるのはとても晴れがましいことだ。
しかし、この摂津の穏やかな暮らしからは考えられないほど遠い世界だ。
年が明けて、私は思い立って、あぶり餅を作らせてみた。
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