2 経房の君

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2 経房の君

 年が明けてしばらくして、私は妊娠したことに気づいた。  夫はそれはそれは喜んでくれた。  この歳で出産に臨むのは少し恐ろしい気もする。けれど、ここ摂津には私を崇拝し、私が頼れる人もいる。それは幸運なことだ。  ある日、ふらりと経房の君がやってきた。 「頭の中将さま」と夫は出迎えたけれど、狩衣姿の経房の君は、「まさか我が上司とお間違いではございませんか。私は平房経。六位の蔵人でございます」と答えたのが御簾の奥から聞こえた。  こういう、軽やかな遊びをさせれば経房の君が一番だ。  けれども「蔵人」と言い続けたということは、どなたかの命令で来られたに違いない。  私は御簾の際で、男二人は御簾のすぐそばに座って、三人で当たり障りのない話をしていた。都からこられた貴公子はなかなかそのどなたかの話にはならないので、私は少し困った。 「そろそろ妊婦には遅い時間ではないかな」  やんわりと夫が促した。 「北の方はご懐妊なのですか」  経房の君は嬉しそうな顔をした。それでは今夜はこれでお暇をしよう、と客間に下がられた。 「頭の中将は確かに何かを伝えに来られたんだが、私が邪魔だったのかな」夫が悲しそうに言った。     
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