2 経房の君

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「相手が頭の中将さまであっても、国府で二人きりで会うわけにも行きますまいよ。国守の北の方を尋ねてきたのなら、国守がそこにいて当然ではありませんか」  日中、夫には仕事がある。客人は私と二人きりになろうとなさるので、私は少し困って、「夜、夫を交えてお話ししましょう」と申し上げるしかなかった。 「摂津守は実にこの国をよく治めておられると見た」  夜になって、経房の君は夫を褒めた。 「明日には私は摂津国を立たねばならないので、国守の前で話さざるを得ません。まず伺おう。あなたは何に嫉妬をしますか?」  御簾の向こうの顔はあまりよく見えないが、夫は困った顔をしただろう。 「別れてくれたから私が得られたと思えば、関係を持ったどの方にも感謝しかありません。強いて言えばあなたの話術を羨ましく思うが、宮中で私が見ることのできなかった北の方のことを窺い知れるので、それもまた妬ましくはない」 「あなたは大変な自信家だ。では、北の方の才能については?」 「枕草子を読んで、ぜひこの人と思いました。宮中にいて、枕草子を書いてくれなければ北の方を知ることもなかった。今ではこの摂津の国府であっという間に人心を掌握した。才媛が私のところに来る気になってくれて私は幸運だと思いますよ」  経房の君はニコニコと答えられた。 「だから清少納言の君があなたを選んだ理由がわかった」     
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