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宇賀神はいろんな初めてを川嶋にくれた。
夏休みには、初めて友達と一緒に映画館へ映画を見に行った。
初めて見たのは、小学生らしくポケモンの最新作だった。
「デートの邪魔すんなよな」と宇賀神はボディガード兼守役の男に離れて歩くように命じて、川嶋の手を握った。
夏だからお互い汗ばんだ手だったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
中2の冬には、初めてキスをした。
宇賀神の唇はびっくりするぐらい熱かった。
そして、その舌がもたらす感触に川嶋は翻弄された。
頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなって、自分が自分でなくなるようで怖くなった。
宇賀神は更にそれ以上を求めた。
だけど、彼は、宇賀神に裸を見られることが怖かった。
小5のときのあの忌まわしい事件をどうしても思い出して、裸をみんなに見られて嘲笑われた記憶が、宇賀神にだけは嫌われたくないという気持ちが、それ以上を拒んだ。
宇賀神は、川嶋の嫌がることは決してしなかった。
祖母が亡くなったとき、身を引き裂かれるような哀しみが身体の中を暴れまわるのに、涙が出なくて苦しくて苦しくて仕方がなかった。
いっそ、祖母とともに死にたい、とすら思うほどに。
そのとき、どうせ死ぬなら宇賀神に抱きしめて貰ってから死にたいと思った。
醜い裸でも、今なら優しい宇賀神は笑わずに抱いてくれる。
そう思って頼んだら、宇賀神はまるで宝物でも扱うかのように丁寧に優しく、川嶋の醜い身体を全部消毒してくれるかのように隅々まで触れてくれた。
宇賀神に触れられたところはすごく熱くなって、しかも綺麗だ綺麗だってうっとりした顔であんまり言うから、もしかしたら彼には浄化の能力でもあるんじゃないかって思った。
途中から訳がわからなくなって、変なこともたくさん口走ったような気がするけれど、宇賀神は全部受け止めてくれた。
宇賀神の熱が身体の中を貫いて、川嶋は死の代わりに生を貰った。
彼の熱が全てを灼き尽くして、川嶋の醜さも汚さもさみしさも哀しさも全部吹き飛ばしてくれたような気がした。
あのとき、宇賀神が命をくれたから。
母が亡くなったときは、死のうとは思わなかった。
ただただ、寒さとさみしさを補って貰うために、ひたすら抱いて貰った。
宇賀神はいつも、川嶋が欲しがるだけ与えてくれる。
だから、宇賀神が欲しがるときは、川嶋も彼が欲しがるだけ与えてあげたい。
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