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春になって、川嶋と宇賀神は同じ高校に進学した。
地元からは少し離れたそれなりの進学校だ。
そこそこの進学校にくる生徒というのは、中学までの雑多な人間関係と違って、割とスマートで芯がしっかりしている人が多い。
ガッツリ進学校とは違って、ライバル意識や競争意識も少ないから全体的に穏やかだ。
本人以外の背景で偏見を持ったりということが少なく、宇賀神も、川嶋以外に初めて普通のクラスメイトとして受け入れられることを経験した。
もちろん川嶋にも宇賀神以外の友人ができて、それを宇賀神は小さな嫉妬を抱きつつも、束縛することはしなかった。
僕にはお前しかいない、と泣いたあの夜の川嶋を知ったからだ。
宇賀神が生きている限り、川嶋を一人にはしないと心に誓っている。
だけど、彼は、宇賀神会の跡取りなのだ。
そんなことは考えたくもないし、そうさせるつもりは絶対にないが、いつ何時命を落とすことになってもおかしくはない。
彼が命を落としたとき、川嶋がどうなってしまうのか、それが何よりも怖かった。
もしもどうしようもなく壊れてしまうのなら、いっそ彼が死ぬときには川嶋も連れて行く、という覚悟すら、心の底に潜めている。
それが、小学6年のあの春、まだ何の覚悟もなく彼を欲しがってしまった自分の、赦されざる罪に対する償いになるのなら。
そうは言っても、二人が相変わらずつるんでいる状態に変わりはなかった。
クラスが違っても、席が離れても。
宇賀神は川嶋を一番近くに置いたし、川嶋もそれを当たり前のように受け入れていた。
朝は一緒に登校し、帰りも一緒に帰宅する。
川嶋は週の半分以上、宇賀神の部屋に泊まるようになった。
彼の母親は、祖母が亡くなって以来、寂しさからか恋人を次々作り、ほとんど家に帰って来なくなったのだ。
宇賀神の父親は、川嶋が息子の嫁になった、と小躍りして喜び、だんだん跡取りとしての教育を受けるようになった彼の周りの柄の悪い男たちは、川嶋をそれまで以上に丁重に扱うようになった。
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