1035人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「今時の極道はインテリじゃなきゃやってけねぇんだとさ」
ため息をつきながら、宇賀神は隣を歩く川嶋に愚痴っている。
川嶋はそんな宇賀神に、少し笑う。
感情をあまり表に出さない川嶋だけど、宇賀神の前ではそこそこ表情豊かだ。
いや、宇賀神が微妙なその表情の変化に敏感なだけかもしれないけれど。
「僕はお前と一緒に予備校通えるなら嬉しいけど」
そんなこと言われたら、宇賀神だって嫌なわけない。
ただ。
「親父のやつ、絶対お前のこといいように使ってるよな」
彼の父親の思い通りに乗せられるのが癪なだけだ。
「でも、龍のお父さんが予備校の費用出してくれたの、僕、本当に助かるから」
だから、責任持ってお前のことも連れて行かないと。
川嶋の母親が全く家に帰って来なくなったのは、高校2年の冬だった。
1週間ぐらいの不在はよくあったから、川嶋は最初、全く気づかなかったらしい。
しかし、不在が3ヶ月になる頃には、さすがに不安が我慢できなくなったようだったから、宇賀神は父親に頭を下げて、川嶋の母の行方を探して貰った。
宇賀神会の手を借りたら、母親の行方はすぐにわかった。
ホスト崩れのだらしない男に散々貢がされ、借金を作り、風俗に身を落として。
アルコールと薬に溺れ、中毒死していた。
死んだときに身元がはっきりせず、川嶋のところに連絡がこなかったのだ。
彼女が身元をはっきりさせなかったのは、借金取りが川嶋のところにいかないようにするためだったのかもしれない。
川嶋には、祖母が残した多くはないけれど大学までは行けるぐらいの遺産があったから。
しかし、川嶋は、とうとう本当にひとりぼっちになってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!