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世の中にこんな綺麗なイキモノがいるのか、と彼は思った。
学年で一番可愛いとかいう女子より、彼の父親のところに群がってくる美女たちより、テレビの中のアイドルや女優たちより、ずっとずっと綺麗だと思った。
先生の隣に立って控え目に視線を落としている少年に、その瞬間、彼はそいつを好きになると確信していた。
「転校生の川嶋暁臣君だ、みんな、この学校のことを教えてあげるようにな」
綺麗な外見に相応しく、名前もカッコイイ。
俺の一番の子分にしてやろう。
あんなほっそい身体じゃ、すぐにいじめられる。
俺の横に置いておけば、絶対に誰にもいじめられる心配はない。
彼はそう思った。
だから、手を挙げて言った。
「先生、そいつの面倒俺が見ます。だから、隣の席にしてください」
先生は、あからさまにビビった顔をした。
そうだろうな、俺は今まで学校であんまり無理を言ったことはない。
俺の背景が恐ろしくて、先生方が腫れ物に触れるように俺を扱っていることは、低学年の頃から知っている。
だからこそ、なるべく面倒をかけないように、おとなしく過ごしてきてやった。
本当に強いやつは、弱いやつをいたぶるようなことは好んでしないものだ。
だけど、譲れないものには命を賭けてでもそれを貫く。
だから。
先生は、困惑したように転校生と俺の顔を交互に見る。
「あー、川嶋、あの、宇賀神の隣でいいか?」
転校生にそんなの聞いてどーすんだか。
そいつが俺のことなんか知ってるわけないだろ。
いくらなんでもそれはどうかと思うぞ、先生。
「僕はどこでもかまいません。親切に言ってくれているので、彼の隣にしてください」
小学校6年生とは思えない大人の対応だった。
その声も、幾分声変わりが始まっているのか、甲高くはない小学生にしては落ち着いた耳に心地よい声。
顔を上げて、真っ直ぐにこちらを見た、その瞳に。
宇賀神龍之介は完全に射貫かれた。
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