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大学に入学して、二人はこれまでと違って少し距離ができた。
宇賀神は大学の勉強のほかに、後継者としての様々な教育がより一層増えて、ものすごく忙しくなったのだ。
川嶋もその頃にはもう、宇賀神が貼りついていなくても、というか貼りついていないからか、それなりに社会生活を送れる程度には友人ができて、生活費や学費のためにバイトなんかもして、大学生活を満喫しているように見えた。
もちろん、関係が切れたわけではなく、宇賀神は身体が自由になる夜には必ず川嶋と同じベッドで寝たし、昼間も時間が許す限りは川嶋の側にいたがった。
しかし、大人になればなるほど、思うようには近くにいられない。
宇賀神が組の中での立場を確立すればするほど、どんどん降りかかる危険も大きくなっていく。
側にいれば、川嶋が巻き込まれる可能性も高くなるのだ。
念のため、川嶋には信頼できる舎弟を何人か持ち回りでボディガードとしてつけている。
それでも、宇賀神の心配は尽きない。
学生のうちはまだいい。
就職したら、ボディガードをつけることすら厳しくなる。
見るからに柄の悪い男が周りをウロウロしていたら、川嶋の社会的なイメージはガタオチだろう。
こうなると、父親が言うように、川嶋が宇賀神会に入ってくれるほうがベストな気もしてくる。
或いはもう、就職なんてさせないで、自分の囲い者として屋敷内に一生しまい込んでしまおうか。
だけど、川嶋はうんと言わないだろう。
あの頑固で、自分の意思を一本きっちり貫いているひとは。
「どーすりゃいいんだよ」
目下のところ、それが最大の悩みの宇賀神会の若き跡目はため息をついた。
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