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気に入らない。 遊佐という男を目の前にして、宇賀神の感想はその一言に尽きた。 何がって、もちろんその容姿だ。 男前すぎる。 宇賀神だって不細工ではない。 むしろイケメンの部類に入るだろう。 将来、関東の裏社会を一手に仕切る男として不足のないガタイも持っている。 だが、目の前の男のイケメンぶりは、規格外すぎる。 しかも、ヤクザを前にしても全然動じず、にこやかに微笑むその男は、食えない匂いがプンプンする。 間違いなく、相当な策士だ。 まあ、そうだろう。 変な輩に狙われることも多いはずだけれども、何事もなく今まで過ごしてきているのだから、そのぐらいの世渡りはできているはずだ。 「お見受けするところ、宇賀神様には私の腕は必要ない気がするのですが、いかがいたしますか?」 気に入らない、が。 川嶋のためだ。 あいつは闇社会ではなく、日の当たる世界で生きたがっている。 それは、小学生のときからずっと変わらない。 「単刀直入に言う」 宇賀神は、遊佐を睨み付けた。 「川嶋暁臣は俺の愛人だ」 遊佐は、食えない笑顔であっさり答える。 「知ってますよ…さすがに雇おうとする相手のことは調査するので」 「なら、知っててあいつを雇うんだな?」 「まあ、そういうことですね」 「あいつが俺に顧客情報を漏らしたりすると思わないのか?」 「どうかな…そういうことがあったら、私の見る目がなかったということでしかない」 つまり、全ての責任は自分にある。 顔だけでなく、中身も男前か。 宇賀神は苛立ちを募らせる。 申し分ない就職先だとわかっている。 わかっているけど。 「私は貴方の可愛いひとに手を出したりしないし、うちの従業員である限り、危険からは徹底的に守ることになるだろう」 遊佐が不意に鋭い瞳になって言う。 「そのかわり、貴方と貴方の組織は私に不干渉でいて貰う」 それでウィンウィン。 どうだろうか? こちらから持ちかけるはずの条件を、先に言われた。 「…いいだろう」 宇賀神は怒りを押し殺すようにして答えた。 帰り際、彼はふと振り返る。 「あいつに今日俺が来たことは黙っててくれ」 アンタと俺は会ったことがないということで。 遊佐は全てわかっているとでも言うように頷いた。
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