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「いいか、秘書ってやつはな、なるべく感情を表に出さないほうがいいんだ」 宇賀神は、新品のスーツを着て髪をオールバックに固め、初出社しようとする川嶋に、滔々と捲し立てている。 「お前は元々そんなに感情を表に出さないけど…とにかく気をつけろよ、笑うなんてとんでもないからな?」 普通秘書は愛想よくしなきゃならないんじゃないかと思うけど?とツッコミたい川嶋だったが、宇賀神が何を心配しているのかなんてわかっているからおとなしく肯定の返事をする。 「わかってる」 それから、まだガミガミ何か言っている宇賀神の首に、背伸びして腕を巻き付けた。 「龍、いってらっしゃいのキスして」 宇賀神は一瞬で黙った。 瞼を伏せて軽く唇を突き出す川嶋の後頭部に手を回して、ぐいっと引き寄せる。 「ん……」 そんな可愛い仕草をしたら、軽いキスで済まされる訳がないことを、川嶋はわかっててやってるのか。 舌を入れ、困ったように逃げる川嶋の舌を捕まえて吸い上げる。 と、力一杯足を踏まれた。 「イタッ」 思わず力を緩めたら、するりと腕の中から逃げられてしまった。 「いくらなんでも朝からそれ以上は困る」 お前が言う、無表情を作れなくなるから。 「いってきます」 川嶋は宇賀神に向かって少しだけ微笑んで、それから歩き出した。 朝の光の中にその細い背中が見えなくなるまで見送って、宇賀神もふっと微笑んだ。 あの背中が心配で、今からでも追いかけて行って連れ戻して家に閉じ込めてしまいたいけれど。 川嶋の綺麗な姿には、朝の光がよく似合っていた。 だから、今は送り出すべきなのだ。 彼は彼のやるべきことをして、そして。 また夜がきたら、彼の元に戻ってくる細い背中を存分に手中に堕とせばいい。 川嶋には宇賀神しかいないのだから。 宇賀神だけが、川嶋の全部を知っている。 宇賀神には川嶋だけじゃないかもしれないけれど。 川嶋しか欲しくない。 だから、絶対に離さないし、離れさせない。
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