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川嶋の母は、18歳で川嶋を産んだ。
相手は妻子ある高校の教師だったらしい。
妻とは別れるから、と言いながら教え子を弄び、身籠った途端に「自分の子かどうかわかるものか」と開き直った最低な男だった。
母は一人で川嶋を産み、しばらくは実家で川嶋を育てた。
認知もして貰えなかったため、川嶋の戸籍の父親の欄は空欄だ。
しかし、高校教師との間に不倫の子を産んだということで、地元ではいろんな噂が飛び交ってとても住みにくかったのだろう。
母の父、つまり川嶋の祖父が病気で亡くなったのをきっかけに、東京に出て働くことにしたらしい。
そのとき、川嶋は3歳ぐらいだったそうだ。
しばらくは母と子だけでなんとかやっていたが、まだまだ手のかかる孫と、母親になったとはいえ年若い娘を案じ、祖母は家屋敷を処分し、娘と孫のために上京した。
3人は母の稼ぎでつましく生活し、貧しくはあったけれどもそれなりに幸せだったと思う。
川嶋は幼かったからその頃のことをぼんやりとしか覚えていないが、祖母も母も自分も、いつも笑っていた覚えがある。
幸せな生活に最初の亀裂が入ったのは、母の失職だった。
川嶋が小学2年のとき、母が勤めていた小さな工場が倒産し、彼女は転職を余儀なくされた。
高卒で何の資格もない20代半ばの扶養家族のいる女の人が再就職するのは厳しく、条件のいい職場なんてなかなか見つからなかった。
母は、昼と夜で2つの職場を掛け持ちするようになり、家ではほとんど寝るだけの生活を送るようになり、川嶋家からは笑い声があまり響かなくなった。
そして、事件が起きた。
川嶋は小学5年になっていた。
彼は、母が転職を余儀なくされた頃から、学校で小さないじめにあっていた。
父親がいないことをからかわれたり、持ち物がボロいことを囃されたり、そんなようなことだ。
川嶋は母も祖母も大好きで、心配をかけたくなかったから二人には黙っていた。
いじめは学年を追うごとに酷くなっていき、その頃には持ち物を隠されたり捨てられたり、誰からも口をきいて貰えなかったり、などのかなり悪質なものになっていた。
それは、川嶋が綺麗な少年だったということも少なからず関係はしていたかもしれない。
彼の気を惹きたいという小さな欲望が、いじめてもいじめても動じない凛とした姿にどんどんエスカレートしていって。
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