おまけ

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「川嶋」 近寄ってくる男に、川嶋は少しだけ身体を固くする。 あまり過剰に反応すると、彼が止めることのできる宇賀神とは違って、ボディガードの高原は容赦しないだろう。 「あいつ、お前の何なの?」 馴れ馴れしく話しかけながら肩に手を置かれて、川嶋は吐き気を覚える。 とにかく早くどこかに行って欲しい。 川嶋は短く答えた。 「お前に答える必要ない」 「は?何その上から目線!お前なんか」 そいつは、川嶋の素っ気ない態度にみるみる顔を怒りで赤くする。 下卑た薄ら笑いで、あの日のように嘲笑いながら言い放った。 「俺たちの犬だったくせに」 いい格好だったよなあ? 犬は服なんか着ないだろ? 縄跳びの首輪がお似合いだったぜ? 何度も何度もあの日の川嶋の姿を脳内で再生した。 自慰を覚えてからは、何度自分の薄汚い欲望でその姿を汚したことか。 忘れたことなんか、1日もない。 「動画に残しておけなかったのが唯一の心残りだったんだ」 川嶋は自分の呼吸がまたおかしくなってきてることに気づいていたが、止められない。 だけど、騒いだら、たぶん酷く大事になってしまう。 「なあ、もう一度あの格好しろよ…どうせあの男に媚びてケツ振ってんだろ?そうやって強いやつに取り入って生きてきたんだろ?ならそもそもの飼い主にも愛想振り撒くのが道理だろ?」 父親がいないで育つと、やっぱりろくでもねえやつになるよな。 決して消えることのない深い傷を、これでもかと言わんばかりに抉られる。 自分のことだけならまだしも、宇賀神まで侮辱して。 肩に置かれた手を振り払いたいのに、息苦しくて身体に力が入らない。 「ここじゃなんだし、あっちでゆっくりご奉仕して貰おうかな…こいよ」 腕を捕まれ、無理矢理立ち上がらせられたとき。 「おい、お前、誰のものに触ってるのかわかってるのか」 恐ろしい威圧感を持つ声が、そいつの背後から響いた。 ヒッと情けない悲鳴を上げて、そいつは飛び上がった。 ギクシャクと声の方を向く。 そこに立っているのは、あの大男ではない。 背格好は普通の学生のように見える。 が、その凄みを帯びた表情が、あきらかに普通の学生とは違った。 「たかはらさん、大丈夫、だから」 苦しい息の下、川嶋は止めようとした。 「そうはいきません、姐さん」 普段そんな呼び方しないくせに、高原はわざとそう言っている。 「若の大事な方に何かあったら、自分が腹を切ることになります」
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