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「なあ、だから、今日は俺んち来いよ」 隣の席で静かに本を読んでいる川嶋に、宇賀神は自分の机に突っ伏して、横から覗き込むようにその綺麗な顔を見つめる。 「行かない」 川嶋の答えはバッサリだ。 かけている眼鏡のフチをちょっと押し上げる仕草をしただけで、本から瞳を離そうともしない。 小学校最後の年に転校してきた隣席の少年は、中学に上がってからもずっと同じクラスで隣の席だ。 彼が小学校のときに担任に丁寧に頼んだ結果、それが中学2年になる今に至っても律儀に申し送りされているらしい。 現在の闇社会で関東最大勢力である宇賀神会会長宇賀神龍児の跡取り息子という存在は、親に泣きつかなくてもそれぐらいの圧力をかけることができるというわけだ。 少し申し訳なくも思う。 彼のお気に入り、というレッテルを転校初日にベッタリ貼られてしまった彼は、もちろんいじめられることは絶対にない。 しかし、友達と呼べる相手も、ただの一人もできてはいなかった。 だけど、それを喜んでいる自分もいる。 学校にいる限り、こいつに話しかけるのは俺だけだ。 それ以外は、たまに先生がどうしても話さなくてはならない用事があるときくらいしか、誰にも話しかけられることはない。 彼だけの川嶋だ。 川嶋がそのことをどう思っているのか知らない。 彼の家のことも、初めて遊びにこいと誘ったときに当然知ったはずだけれども、それを知っても他の子どものように、急に怖がるようになったり逆に媚びるようになったりもしなかった。 普通に淡々と一緒に遊び、次の日も普通に会話した。 そのことで、ますます宇賀神が川嶋を「気に入った」のは仕方ないと思う。 そんなふうに普通に接してくれる子どもは、いや、大人でさえも、幼児の頃から誰一人としていなかったのだ。 「なんで?なんか用事あるのか?」 新しいゲーム買ったんだ、一緒にやろうぜ。 「お前んち行くと、お前、変なことするだろ」 読んでいる本を取り上げると、やっと視線を上げて、川嶋はじろりと宇賀神を睨む。 「僕はああいうことはしたくない」 まあ、そうだろうな。 宇賀神は、自分が先日この綺麗なイキモノにした行為を思い出す。
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