おまけ

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やっぱりわざとだ。 高原はいつもそんなあからさまにヤクザな口をきかない。 しかし、川嶋の元クラスメイトはその言葉を聞いて可哀想なほど蒼白になっている。 そこに、宇賀神の重厚な足音が戻ってきた。 「アキ」 宇賀神は、チッと舌打ちした。 席を外したのはキッチリ2分だ。 川嶋にちょっと触れるだけで、それを理由にガッツリ落とし前をつけさせるつもりだった。 なのに、たった2分で川嶋をこんなに追い詰めるなんて、どこまで下衆な男だというのか。 震え上がっている男には目もくれず、宇賀神は川嶋の身体を腕の中に抱き締めた。 手で口を覆うのではなく、唇で、ひっきりなしに息を吸い続ける口を塞いだ。 ゆっくり、優しく、舌で宥めるようにその口の中を撫でる。 強張っていた川嶋の細い身体がゆっくり緩んでいく。 指先が動いて、宇賀神のシャツを掴んだ。 そっと唇を離すと、呼吸の落ち着いた川嶋の色の戻った唇が一瞬、もっと、と追いかけるような仕草をしたが。 おねだりは後でたくさん聞くから。 今は。 宇賀神は、顔を上げた。 その顔は完全に冷酷な極道のそれだ。 視線一つでチビりそうになるぐらい、威厳と怒りに満ちている。 「俺は先週警告したぞ」 アキの周りをうろついたらどうなるか。 「お、俺は悪くない…そいつが」 その場で最もしてはいけない言い訳を、そいつは捲し立てた。 「そいつが、誘ったんだ」 思わず息を呑んだのは、舎弟の高原だった。 彼の崇拝する宇賀神会の後継者は、これまで見た中で一番恐ろしいオーラを放っている。 これまでだって、関東最大の裏組織を束ねていくのに相応しい貫禄と迫力を十分に持っていた。 だが、宇賀神の中には更に眠れる獅子がいたのだ、と思わざるを得ないほどの。 「高原」 「はい!」 「黙らせろ」 その一言で、高原の拳がそいつの鳩尾にキレイに決まった。 「連れてけ」 この下衆をこれ以上川嶋の目の前に置いておきたくない。 気づいたら、教室の中には他に誰もいない。 まるで打ち合わせでもしていたかのように、数人の舎弟が教室に入ってきて、意識を失ったその男を両側から抱えるようにして連れて行ってしまった。 宇賀神は、誰もいなくなった教室で、ぎゅっと川嶋を抱き締めた。 「アキ、ごめんな」 お前にそんな顔をさせて。 「龍が来てくれるってわかってたから、平気」 でも。 川嶋はぶるっと身体を震わせた。
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