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「先生さよなら」
「はいさよなら。気を付けて帰るのよ」
久喜詩歌は、いつも通り、生徒を見送ると、教員室で残りの仕事を済ませるために机に向かう。
「久喜先生、お帰りにならないんですか?」
この春に研修を終え赴任してきた松宮英に声をかけられる。
整った顔立ち、長身で爽やかな松宮は女子生徒からも女性教員からも人気があった。
詩歌にとっては5歳も下で、見た目もあまり好みではなかったが。
基本的に職場で恋愛はないと割り切っていた。
ただの後輩だ。
「よかったらお食事でも」
周りに人の気配がないことを確かめ、囁いてくる。
「いえ。帰って夕食の支度とか、母の世話もありますので」
本当のことでも犬の散歩や猫の餌はわざとらしい気がした。
当たり障りない断り文句、となにかと使っていた。
「そうですか。じゃあまた今度」
残念そうに。
松宮には伝わっていなさそうなのがむしろ詩歌には残念だった。
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